今回は、埋伏歯の症例の中でも上下の犬歯が歯茎の中に埋まっている症例をご紹介します。
こちらが初診時の歯並びです。

前歯上下の8本は正しい位置に見えますが、他の箇所の歯並びが気になり、口を思いっきりあけて笑うことができないというお悩みをお持ちでした。

初回カウンセリングのパノラマX線写真撮影をすると、歯茎の中で複数本の歯が横向きに生えていることがわかります。

埋伏歯は、放っておくと歯並びの乱れに影響するだけでなく、隣接する歯根の吸収(※)に関連することもあるため、早期の適切な治療が必要です。
矯正治療においては、歯を正しい位置に配列し、かみ合わせを正すだけでなく、歯を動かしたことによる、歯根吸収のリスクも考えた上での治療計画が必要です。無理な力で歯を動かせば、それだけ歯に負担がかかり、歯根吸収につながることもあるためです。
※歯根吸収とは…わかりやすくお伝えすると、歯の根っこが短くなることです。歯の根っこが短くなると将来的に抜けやすくなる等のリスクがあります。

 

今回は上下の埋伏があるため、まずは上下2本を抜歯し、歯を移動させるスペースを確保します。

【抜歯後】

移動させたい歯と位置を固定したい歯を選別し、装置をつけます。抜歯したスペースに奥歯が前へ移動してしまわないように、「ホールディングアーチ」という奥歯を固定させる装置をつけます。この装置は上顎の奥歯同士の間にワイヤーを入れるので、突っ張り棒のような役割をしています。

 

歯を移動させるか、固定するか、抜歯をするかしないか、どのように歯が動くかなど考慮して歯を動かす範囲を決めていきます。

【奥歯を固定】

歯を動かす回数が増えるほど、歯1本あたりにかかる負担も増えてしまい、歯根吸収の原因になることもあるため、当院では、リスクを最小限にすることも念頭に治療計画を立てています。

 

【治療経過】
ブラケット装置によって、埋伏していた歯を少しずつ動かします。約2年をかけて歯を移動させました。

歯並びのお悩みはご本人も見た目に関することなので自覚がありますが、このような埋伏歯の存在はレントゲンを撮影しないと発見できません。
歯並びだけでなく、ご自身の歯の本数にも、関心を持っていただけたらと思います。

お悩みとしては、歯茎から歯が生えている、歯の本数が足りない、犬歯が生えてこないという場合が埋伏歯であることが多い傾向です。歯の生え方も将来の歯並びに関係しますので、まずはご相談いただければと思います。

 

●主訴
上下の犬歯が生えてこない。歯茎から横向きに歯が生えている。

●診断名あるいは主な症状
上顎両側犬歯埋伏を伴う上顎・下顎叢生

●年齢
17歳5ヶ月

●治療に用いた主な装置
セルフライゲーション型セラミックブラケット装置(デーモンクリア)

●抜歯部位
埋伏した上顎左右3番目の歯と右下4番右下5番の歯を抜歯

●治療期間
3年4ヶ月

●メンテナンス頻度
月1回

●治療費用(税抜)
約800,000円(2020年8月時点)

●治療を行う上での注意点(リスク・副作用)

矯正歯科治療に伴う一般的なリスクや副作用について(改訂)

日本矯正歯科専門医機関の規定により、当院では矯正治療を行う上で、リスクや副作用を明示しています。

  1. 最初は矯正装置による不快感、痛み等があります。数日間~1、2 週間で慣れることが多いですが個人差があります。
  2. 歯の動き方には個人差があります。そのため、予想された治療期間が延長する可能性がありますが、その場合には改めて治療期間のスケジュール作成等をいたします。
  3. 装置の使用状況、顎間ゴムの使用状況、定期的な通院等、矯正治療には患者さんの協力が非常に重要であり、それらが治療結果や治療期間に影響することがあります。
  4. 治療中は、装置が付いているため歯が磨きにくくなります。むし歯や歯周病のリスクが高まりますので、丁寧に磨いたり、定期的なメンテナンスを受けたりすることが重要です。また、歯が動くと隠れていたむし歯が見えるようになることもあります。程度によっては、虫歯治療を優先します。
  5. 歯を動かすことにより歯根が吸収して短くなることがあります。また、歯ぐきがやせて下がることがあります。
  6. ごくまれに歯が骨と癒着していて歯が動かないことがあります。
  7. ごくまれに歯を動かすことで神経が障害を受けて壊死することがあります。
  8. 治療途中に金属等のアレルギー症状が出ることがあります。その場合には装置の変更等を行います。
  9. 治療中に「顎関節で音が鳴る、あごが痛い、口が開けにくい」などの顎関節症状が出ることがあります。
  10. 様々な問題により、当初予定した治療計画を変更する可能性があります。
  11. 歯の形を修正したり、咬み合わせの微調整を行ったりする可能性があります。
  12. 矯正装置を誤飲する可能性があります。
  13. 装置を外す時に、エナメル質に微小な亀裂が入る可能性や、かぶせ物(補綴物)の一部が破損する可能性があります。
  14. 装置が外れた後、保定装置を指示通り使用しないと後戻りが生じる可能性が高くなります。保定装置とは>>
  15. 装置が外れた後、現在の咬み合わせに合った状態のかぶせ物(補綴物)やむし歯の治療(修復物)などをやりなおす可能性があります。
  16. あごの成長発育によりかみ合わせや歯並びが変化する可能性があります。
  17. 治療後に親知らずが生えて、凸凹が生じる可能性があります。加齢や歯周病等により歯を支えている骨がやせるとかみ合わせや歯並びが変化することがあります。その場合、再治療等が必要になることがあります。
  18. 矯正歯科治療は、一度始めると元の状態に戻すことは難しくなります。