今回ご紹介するのは、7歳から治療を開始、治療終了が13歳。治療後2年目の経過もわかる症例です。

乳歯が残っている時期から矯正治療を開始する場合、その時点の歯並びだけを整えることが目的ではありません。これから生えてくる永久歯が適切な位置に萌出できる環境を整えながら、永久歯の萌出位置や顎の成長スピード、骨格への影響、親知らずの状態などを総合的に考慮し、お子さんの成長に合わせて治療を進めていくことが重要です。

【初診時】

7歳9か月時点の歯並びです。初診時には、歯並びの乱れと不正咬合が認められました。上下の前歯はすでに永久歯へ生え変わっていましたが、レントゲン写真からもわかるように、その他の永久歯はまだ十分に萌出していない時期でした。

また乳歯のむし歯により歯が溶けていることもわかります。この時期にむし歯が多発したり、乳歯を早期に失ったりすると、永久歯が適切な位置に萌出するためのスペースや口腔内の環境に影響を及ぼすことがあります。その結果、将来の歯並びやかみ合わせに影響する場合もあり注意が必要です。

まずは、連携歯科医院でむし歯の治療を受けた後、当院で矯正治療を開始することになりました。

【第一期治療①】上顎のリンガルアーチの装着・フェイシャルマスクの使用を開始

第一期治療では、上顎の永久歯が生えるスペースを確保を優先しました。まずは上顎にリンガルアーチ(舌側弧線装置)を使用し、歯の裏側から前歯を前方へ移動させました。また、上顎の成長を促す目的でフェイシャルマスクも併用。フェイシャルマスクは就寝時のみ使用していただきました。

【第一期治療②】上顎にブラケットを装着

第一期治療①で上顎が前に移動してきたことにより、下顎と上顎の差が少し改善したことがわかります。

【第一期治療③】下顎にカリエールを装着

治療開始から4年後、11歳時点の歯並びです。

乳歯の段階から、永久歯が適切な位置に萌出できる環境を整えながら治療を進めてきたことで、永久歯が比較的良好な状態で萌出してきました。

この時期は、永久歯への生え替わりや顎の成長状況を確認しながら、かみ合わせの調整を進めました。かみ合わせの改善を目的として、上顎の6番と下顎の3番に歯間ゴムを使用しています。

さらに次の治療ステップとして、下顎にカリエール(※)を用いた治療を開始しました。今回は、永久歯が揃っていく過程に合わせてカリエールを使用し、その後の本格的な矯正治療へとつなげていきました。

(※)カリエール装置とは?

カリエール装置は、歯並びやかみ合わせを改善するために使用する矯正装置の一つです。今回のように、永久歯が揃っていく過程で使用することで、その後の本格的な矯正治療を進めやすくすることが期待できます。

【第二期治療①】永久歯が揃った段階で全体の歯並びを調整

12歳時点の歯並びです。

全ての歯が永久歯に生え変わったあと、上下にブラケットを装着し、歯の隙間やかみ合わせを整える本格的な矯正治療へ移行しました。

【治療終了時】

13歳時点の歯並びです。

歯列全体の位置とかみ合わせを調整し、矯正治療を終了しました。ただし、矯正治療が終了した後も、成長期の方は定期的な経過観察が重要です。

この症例では、4本の親知らずが確認されていたため、今後の萌出方向や周囲の歯への影響について、定期検診を通して経過を確認していくことになりました。親知らずの状態は、歯並びやかみ合わせ、周囲の歯や歯ぐきの状態に影響する場合があるため、注意が必要です。定期検診で経過を見ていくことになりました。

【治療終了後:2年1ヶ月経過】

 

15歳時の歯並びです。

治療終了後もリテーナーを継続して使用することで、治療終了時の歯並びとかみ合わせが維持されています。この時点では、新たなむし歯や親知らずによる明らかな問題も認められず、良好な状態を維持することができています。


まとめ:外科的治療を行わずに治療を進めることができました

受け口の程度や顎の成長の状況によっては、成人後に外科的矯正治療が必要となるケースもあります。この症例では、7歳から治療を開始し、歯の位置だけでなく、上顎・下顎の成長や永久歯への生え変わり時期、お子さん本人の気持ち、ご家族のサポート状況などを慎重に確認しながら長期的に治療を進めました。その結果、この患者さんでは外科的矯正治療を行わずに、歯並びとかみ合わせを整えることができました。長い治療でしたが、お子さんもご家族もチームで頑張った結果、得られた歯並びとも言えます。

ただし、すべての受け口が早期治療によって外科的治療を回避できるわけではありません。

受け口には、歯の位置だけでなく、骨格的な要因や遺伝的な要因なども関係します。また、成長期の顎の成長には個人差があるため、治療開始時に将来の成長を完全に予測することはできません。だからこそ、受け口が気になる場合には、早い段階で矯正歯科を受診し、その時点で治療が必要なのか、あるいは成長を観察しながら治療開始のタイミングを判断するのかを診断することが重要です。

お子さんの歯並びやかみ合わせは、現在の状態だけでなく、これからの成長も含めて考えていく必要があります。早期から定期的に経過を確認することで、そのお子さんの成長に合わせた治療計画を立てることにつながると言えます。


<初診時>

●主訴

乳歯の段階で歯並びが受け口の状態であり、症例の歯並びが心配。

●診断名あるいは主な症状

受け口(下顎前突)を伴う不正咬合

●年齢

7歳

●治療に用いた主な装置

フェイシャルマスク、リンガルアーチ、セラミックブラケット、歯間ゴム

●抜歯部位

なし

●治療期間

約5年10ヶ月

●メンテナンス頻度

月1回

●治療費用(税込)

約1,100,000円